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札幌地方裁判所 昭和59年(行ウ)32号 判決

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

被告らが原告らに対して昭和五八年四月一九日付けでした別表一「処分内容」欄記載の各処分を取り消す。

第二  事案の概要

本件は、北海道開発局に勤務する国家公務員であり、全北海道開発局労働組合(以下「全開発」という。)の組合員である原告らが、昭和五七年一一月に国道等の除雪事業の請負化に抗議して行ったストライキ及び同年一二月に人事院勧告の完全実施を求めて行った二回のストライキについて、指導的役割を果たし、又は参加したことを理由として、原告らの懲戒権者である被告らから懲戒処分を受けたので、原告らにおいて右懲戒処分が違法であると主張して、その取消しを求めた事案である。

一  争いのない事実

1 原告らは、昭和五七年一一月ないし一二月当時、別表一「勤務官署」欄記載の官署に、同表「官名」欄記載の総理府技官又は総理府事務官として勤務していた国家公務員である。

2 全開発は、北海道開発局に勤務する職員らによって組織された職員団体であり、原告らは、いずれもその組合員である。

3 原告らは、全開発が昭和五七年一一月一日、同年一二月一六日、同月二四日に実施したストライキ(以下、順に「一一・一ストライキ」、「一二・一六ストライキ」、「一二・二四ストライキ」という。)において、それぞれ、別表二「処分の対象となった争議行為」欄記載の行為(以下「本件争議行為」という。)を行った。

4 被告らは、昭和五八年四月一九日付けで、原告らに対し、本件争議行為を理由として、別表一「処分内容」欄記載の各懲戒処分(以下「本件処分」という。)をした。

5 原告らは、昭和五八年六月ころ、本件処分が違法であるとして、人事院に対し審査請求をしたが、人事院は、昭和五九年六月一二日付けでいずれもその請求を棄却する旨の判定をなし、右判定書は昭和五九年七月ころ、各原告に送達された。

二  争点

1 国家公務員法(以下「国公法」という)九八条二項は、憲法二八条に違反するか。

2 国公法九八条二項は、結社の自由及び団結権の保護に関する条約(以下「ILO八七号条約」という。)に違反し、憲法九八条二項に違反するか。

3 本件処分は、国公法九八条二項の適用上、憲法二八条に違反するか。

4 本件処分が懲戒権の濫用かどうか。

これらの争点に関する当事者双方の主張は、別紙「当事者の主張」のとおりである。

第三  当裁判所の判断

一  処分事由該当性について

争点1ないし4について判断する前提として、原告らの行った本件争議行為が国公法八二条所定の懲戒事由に該当するか否かについて検討する。

1 一一・一ストライキに至る経緯等(特に証拠を掲記したもの以外は争いがない。以下同じ。)

(一) 北海道開発局は、北海道内の国道及び一部道道の除雪を所管しているところ、右除雪作業について、従来、北海道開発局の定員職員及び非常勤職員によって直接施行してきた(いわゆる直営方式)。

(二) 昭和四四年に行政機関の職員の定員に関する法律(総定員法)が成立し、定員職員の補充が難しくなったことから、北海道開発局においては非常勤職員の数が年々多くなり、殊に除雪作業に従事する職員については、非常勤職員の占める比率が非常に大きくなっていたところ、昭和五〇年代における行政改革の推進に伴い、北海道開発庁をはじめとする中央から、事務・事業の合理化、効率化、とりわけ非常勤職員の雇用の適正化及び事務・事業の請負化、委託化を迫られており、また、会計検査院からも、昭和五四年一二月に、直営作業による除雪の施行はこれに請負に付して施行するのに比べ一・四倍から二・一倍割高になっており、建設省等においては同種作業のほとんどを既に請負により実施しているとの指摘を受けるような情勢にあった。

(三) 北海道開発局当局(以下「当局」という。)は、右のような情勢を受けて除雪作業を民間業者に請け負わせる方式を採用して非常勤職員を削減することを検討し、昭和五六年一〇月八日、一次除雪の四七パーセントを請負化する計画を策定し、全開発に提示したが、全開発の強い反発を受け、また、この年は特に降雪量が多く、全開発による超勤拒否などによって除雪作業が混乱したため、右提示を撤回した。

(四) 当局は、昭和五七年三月九日(以下、昭和五七年の日付については年号の記載を省略することもある。)、従来直営作業要員として雇用していた任用予定期間六月未満の非常勤職員の雇用を行わず、これによる既存の要員の能力では対処できないこととなる除雪路線を請負化することを基本的な内容とする「昭和五七年度道路維持事業(除雪を含む)執行計画」を全開発に提示した。当局と全開発は、右計画に基づく事業の実施について協議に入ったが、意見の一致をみなかった。そこで、当局は、四月一五日、除雪事業執行計画中の任用予定期間六月未満の非常勤職員の雇用数を対前年比三割とする提示をしたが、これも合意に至らず、両者は翌一六日、引き続き協議を継続することを合意した。

(五) 当局は、その後、九月一〇日になって、全開発に対し、除雪事業執行計画中の任用予定期間六月未満の非常勤職員の雇用数は四月一五日に提示した内容のままとする一方、一一月一日までに除雪事業執行体制を確立する必要があるとして、一〇月一六日を協議期限とする提示をした。右再提示についても、当局と全開発の意見は一致しなかったが、協議期限については、全開発が一〇月三〇日までの延長を主張し、最終的に、一〇月一五日に至って、協議期限を同月二三日までとする合意が成立した。

なお、右の点に関し、原告らは、協議期限を一〇月二三日までと合意したことはない旨主張し、これに沿うものとして甲第八三号証がある。同号証には「(一〇月)二三日まで精力的に協議を行い、その状況をみて、二三日にあらためて議論することを確認し、話し合いを継続することにしました。」と記載されている。しかしながら、前年度である昭和五六年度には事前協議が降雪期に食い込み、そのため道路交通に多大の影響を及ぼす事態になり、新聞等から強く批判されたこと、そのため、当局は昭和五七年度においてはこのような事態を避けようと、一一月一日には除雪体制を確立する方針であったこと、したがって、全開発に対しても当初一〇月一六日を事前協議期限としたこと、このような経緯の下で一〇月一五日、当局と全開発書記長との間で交渉がなされたこと、そして、この交渉において、全開発は協議期限を一〇月三〇日とするよう求めたが、当局は、請負化に伴う入札等の準備期間を考慮して一週間の延長が限度であると主張したことが認められるのであって、このような経緯からすると前記甲第八三号証記載のように一〇月二三日以降も協議の継続があり得るということは考えられないことに加えて、乙第八二号証に、「当局の意向はきいた、それでは二三日に向け組合としても積極的に話し合うこととすることでよいか。」(組合側の発言)、「この期間内で組合としても積極的に話し合うよう下部を指導し、議論の残ることのないよう徹底されたい。当局もそのように部局を指導する。」(当局側の発言)、「わかった。それではこの延伸については、双方、明日正式にそれぞれ下部へ指示することとしたい。」(組合側の発言)と記載があることや証人福原尚信の「一〇月二三日まで一週間の延期ということで合意に達した」旨の証言に照らすと、一〇月一五日の交渉において一〇月二三日を協議期限とすることが決められたとみるのが相当である。

(六) 一方、全開発は、九月二三日から同月二五日まで札幌市で開催された第五四回定期大会及び一〇月一日札幌市で開催された支部代表者会議において、昭和五七年秋期年末闘争方針を決定し、全開発としては、人事院勧告の完全実施を求める公務員共闘の統一闘争の参加に加え、直営による除雪執行体制の確立及び非常勤職員の次年度雇用の確保等を独自の課題とし、右課題達成のための最高戦術として、一時間以上にストライキを実施することを決定した。

(七) 一〇月一二日及び一三日の両日、前記大会の決定に基づくストライキ批准投票が行われ、全組合員の七五・六二パーセントがストライキ実施に賛成し、かつ、傘下一四支部中一三支部において所属組合員の過半数の賛成を得たことから、昭和五七年秋期年末闘争におけるストライキの実施が批准された。

(八) 他方、当局と全開発の除雪事業執行計画に係る協議は、意見の一致をみないまま一〇月二三日を迎えた。そのため、当局は、同計画に係る全開発との協議を打ち切った。

(九) 一〇月二五日、全開発は、当局に対し、協議の続行を申し入れたが、当局は、降雪期が迫っており請負化に伴う事務手続に入る必要があったこと、また、協議を続行しても請負化をめぐる議論の蒸し返しになると考えたことなどから、右申入れには応じなかった。

(一〇) 全開発は、一〇月二七日に札幌市で開催された支部代表者会議において、当局が除雪事業執行計画の協議を打ち切ったことに抗議するため、勤務時間に二九分間食い込む職場集会を一一月一日に開催すること等を決定した。

(一一) 当局は、一〇月三〇日、全開発中央執行委員長及び各支部執行委員長に対し、それぞれ北海道開発局長名及び各開発建設部長名等の文書をもってストライキの中止を求め、違法行為には断固たる措置を採らざるを得ない旨の警告を行い、一一月一日、同趣旨の警告文等を各庁舎に掲示し、職員に対し、各所属長を通じて同趣旨の警告文書を交付するとともに、各所属長から同趣旨の訓示を行った。

(一二) 全開発は、一一月一日、午後〇時三〇分ころから一時間規模の職場集会を開催して、午後の勤務時間に最大二九分間食い込むストライキを実施した。

(一三) 右ストライキには、北海道開発局全局(本局を除く。)において、当日勤務すべき職員一万一三四三名中七四六九名(定員職員については七三九一名中五三九二名)がこれに参加した。

2 一二・一六ストライキ及び一二・二四ストライキに至る経緯等

(一) 人事院は、昭和五七年八月六日、国会及び政府に対し、一般職国家公務員の給与について四月一日に遡って、平均四・五八パーセント引き上げること等を求める勧告を行ったが、政府は、九月二四日の閣議において、危機的財政事情の下、公務員が率先してこれに協力する姿勢を示す必要があること等を理由として、給与改定を見送る旨の決定を行った(右決定に至る経緯の詳細は後記四1のとおり)。

(二) 全開発は、九月二三日ないし同月二五日に開かれた前記第五四回定期大会及びその決定に基づくストライキ批准投票により、人事院勧告の完全実施を求める公務員共闘の統一闘争には、ストライキをもって参加することを決めていたが、政府の右決定を受けて、一一月一〇日に札幌市で開催された第五五回臨時大会において、国会における審議の山場に二時間規模のストライキを行うことを決定した。

(三) ストライキの具体的戦術については、公務員共闘が一二月八日の戦術会議で、衆議院予算委員会の山場と予想される同月一六日に二時間規模のストライキを、参議院の予算審議の重要段階においても二時間規模のストライキをそれぞれ実施する旨決定したことを受けて、全開発は、同月九日に札幌市で開催された支部代表者会議において、全開発としてもそれぞれ一時間規模のストライキをもって参加することが決定された。

(四) 当局は、一二月一五日、全開発中央執行委員長及び各支部執行委員長に対し、それぞれ北海道開発局長名及び各開発建設部長名等の文書をもってストライキの中止を求め、違法行為に対しては断固たる措置を採らざるを得ない旨の警告を行い、同日、同趣旨の総理府総務長官談話、北海道開発庁長官談話等を各庁舎に掲示し、職員に対し、各所属長を通じて同趣旨の警告文書等を交付するとともに、各所属長から同趣旨の訓示を行った。

(五) 全開発は、一二月一六日、職場外集会の開催及び自宅待機の態様により、始業時からおおむね一時間のストライキを実施した。

(六) 右ストライキには、北海道開発局全局において、当日勤務すべき職員一万一三四三名中九八四一名(定員職員については八五九八名中七四六九名)がこれに参加した。

(七) 次いで、公務員共闘は、一二月二〇日及び同月二三日に戦術委員会を開催し、同月二四日を参議院予算委員会における審議の山場と設定して、同日二時間のストライキを行うことを確認した。

(八) 当局は、一二月二三日、右(四)と同様の警告等を行ったが、全開発においては、同月二四日、ストライキの規模を一時間から二九分間に変更した上で、自宅待機の態様により、始業時からおおむね二九分間のストライキを実施した。

(九) 右ストライキには、北海道開発局全局において、当日勤務すべき職員一万二五八六名中一万七六四名(定員職員については八四九七名中七四〇三名)がこれに参加した。

3 本件争議行為における原告らの行為等

(一) 原告らは、本件各ストライキの当時、全開発において、それぞれ別表二「組合役職名」欄記載の役職にあった者である。

(二) 全開発中央執行委員会(以下「本部執行部」という。)は、全開発の業務を遂行する最高機関であり、議決機関である大会及び中央委員会の決議に従って業務を執行する任務を有しているとともに、議決機関の決議に基づき中央執行委員長名で組合活動に関する一切の指令を発する権限を有している。

本部執行部は、本件各ストライキに関し、ストライキの実施を含む昭和五七年秋期年末闘争方針案の掲載された議案集をあらかじめ組合員に配布した上で、第五四回定期大会を招集し、同闘争方針案を同大会に提出し、同大会において闘争方針が原案どおり決定されると、闘争の具体的戦術等に関する同執行部案を支部代表者会議に提案し、同会議において執行部案が原案どおり決定されると、各支部にストライキ批准投票を実施させ、ストライキの実施が批准されると、ストライキ準備指令を発し、闘争の意義の訴え及びストライキへの参加呼び掛けなどを内容とする機関紙「全開発」を発行して組合員に配布し、公務員共闘の統一闘争に備えて意思結集を図るため、第五五回臨時大会を招集するなどして、全開発に属する組合員をしてストライキを実施させた。

右一連の行為は、別表二原告番号1ないし3、5、6の原告らが全開発中央執行委員会という組合の上部機関の構成員として行ったものであり、ストライキの企て、又はその遂行の共謀、そそのかし若しくはあおりに該当するものである。

(三) 全開発の支部は、北海道開発局本局、一一の開発建設部、土木試験所及び建設機械工作所に置かれているところ、各支部の執行委員会(以下「各支部執行部」という。)は、本部及び支部の議決機関の決議に従って支部の業務の執行に当たる機関である。

各支部執行部は、本件ストライキに関し、ストライキの実施等を内容とする昭和五七年秋期年末闘争方針案が記載された全開発第五四回定期大会及び第五五回臨時大会の議案集を組合員に配布してその内容の周知を図るなどの情報宣伝活動を実施するとともに、右定期大会において決定された全開発のストライキ実施方針や支部代表者会議において決定されたその具体的な闘争手段を受けて、支部執行委員会、分会代表者会議及び勤務時間外職場集会を開催し、また、ストライキに参加するよう呼びかける内容の支部機関紙等の発行及び配布を行って全開発の当該支部に属する組合員をしてストライキを実施させたものである。

別表二原告番号7ないし58、60ないし86、88ないし91、93ないし104、106ないし109、111ないし115、349、350の原告らは、全開発の各支部執行委員会という組合の機関の構成員として、右一連の行為を行って指導的役割を果たしたほか、自ら本件各ストライキに参加したものであって(争いがない。)、同原告らの行為が、ストライキの遂行の共謀、そそのかし若しくはあおり又は参加に該当することは明らかである。

(四) その他の原告らは、本件各ストライキ当時、支部の議決機関の承認によりおおむね職場ごとに設置されている分会の執行委員長として、それぞれ、別表二「参加行為」欄記載のとおり本件各ストライキに参加したものである(争いがない。)。

4 以上のとおりであって、原告らの本件争議行為は、いずれも国公法九八条二項の規定に違反し、同法八二条一号の懲戒事由に該当するものである。

二  争点1(国公法九八条二項は、憲法二八条に違反するか。)について

原告らは、国公法九八条二項は適切な代償措置を講じないまま一般職非現業国家公務員(以下単に「公務員」という。)の争議行為を全面一律に禁止しており、公務員の労働基本権を不当に制限するものであるから、憲法二八条に違反していると主張するので、まず国公法九八条二項が憲法二八条に違反するものかどうか、検討する。

1 たしかに、憲法二八条の労働基本権の保障は、公務員に対しても及ぶと考えられるが、この労働基本権の保障は、憲法二五条のいわゆる生存権の保障を基礎理念とし、勤労者の経済的地位の向上のための手段として認められたものであって、それ自体が目的とされる絶対的なものではないから、おのずから勤労者を含めて国民全体の共同利益の見地からする制約を免れないものである。公務員についてみるに、公務員は国民全体の奉仕者としての地位を有し、国が国民に対して負担する公務の遂行を担当し、給与その他の勤務条件も、国民の代表者により構成された国会の制定した法律・予算によって定められる等の特殊性を有するものであるから、その争議行為についても一般私企業における場合とは異なる制約に服すべきものとし得ることは当然である。もとより、公務員が右のような特殊な地位等あるからといって、憲法上保障された労働基本権を無条件に制限することが許されるわけではない。国民全体の共同利益の見地から憲法上の権利を制約する以上、制約に見合うだけの代償的措置が講じられなければ、そのような制約は憲法二八条に反するものというべきである。

2 そこで、公務員の場合に争議行為禁止に見合うだけの措置が講じられているか否かについて検討する。

法律は、公務員について、法律又は人事院規則に定める事由による場合でなければ、その意に反して免職等されることがないという身分保障をし(国公法七五条一項)、給与については法律により定められる給与準則に基づいて支給し(同法六三条)、その他の勤務条件についても、法律の規定の趣旨に沿った人事院規則で定める等とした上(同法一〇六条)、これらを保障する手段として、任命資格について厳しく定めた人事官三人で組織され、内部機構の管理について国家行政組織法が適用されない人事院制度を設けている(同法三条ないし二五条)のである。これらの法律上の規定からすると、公務員については争議行為の禁止という労働基本権の制限に見合った適切な代償措置が講じられているというべきである。

3 以上検討したところからすると、公務員の争議行為を禁止した国公法九八条二項は、憲法二八条に違反するものではないというべきである(最高裁昭和四八年四月二五日大法廷判決・刑集二七巻四号五四七頁参照)。

したがって、これと異なる原告らの主張は採用しない。

三  争点2(国公法九八条二項は、ILO八七号条約に違反し、憲法九八条二項に違反するか。)について

1 原告らは、国公法九八条二項はILO八七号条約に違反しており、憲法九八条二項に違反し無効である旨主張し、その根拠として、ILOの結社の自由委員会や条約勧告適用専門家委員会の見解を引用する。

なるほど、《証拠略》によれば、ILOの結社の自由委員会は、「ストライキの全般的禁止は、組合員の利益を増進し、擁護するために労働組合にとって利用し得る手段(ILO八七号条約一〇条)とその活動を組織する権利(三条)を著しく制約する。」との見解を明らかにしていること、また、条約勧告適用専門家委員会は、「ストライキ権はILO八七号条約によって保護されている結社の権利に内在する当然の権利である。」との見解を明らかにしていることが認められる。

2 しかし、ILO八七号条約は、もともと結社の自由及び団結権の保障を目的としたものであって、争議権を保障したものではないのである(最高裁昭和四四年四月二日大法廷判決・刑集二三巻五号三〇五頁、同平成元年九月二八日第一小法廷判決・裁判集民事一五七号六五三頁参照)から、国公法九八条二項が同条約に違反するということはできない。ILOの諸機関の見解は、ILO条約に関する一つの公式見解として考慮されるべきではあるが、国際司法裁判所の最終判断(ILO憲章三七条一項、二項)とは異なり、これがILO条約を解釈する際の法的拘束力ある基準として法源性を有するものとは考えられない。

したがって、国公法九八条二項がILO八七号条約に違反し、憲法九八条二項に違反しているという原告らの主張は、前提を誤っており、採用できない。

四  争点3(本件処分は、国公法九八条二項の適用上、憲法二八条に違反するか。)について

原告らは、仮に国公法九八条二項が憲法二八条に違反しないとしても、それは争議行為制限の代償措置が正常に機能していることを前提とするところ、本件においては代償措置としての人事院勧告が全く実施されず、争議行為制限の代償措置が正常に機能していない状況にあったのであるから、代償措置の機能の正常化を求めるために行われた本件争議行為に国公法九八条二項を適用して懲戒処分をすることは、同条の適用上憲法二八条に違反する旨主張する。

たしかに、公務員の労働基本権は、前記のとおり、代償措置が講じられていることを一つの根拠として制約されているものであるから、仮にその代償措置が迅速公平にその本来の機能を果たさず、実際上画餅に等しいとみられる事態が生じた場合(前記最高裁昭和四八年四月二五日判決における岸・天野両裁判官の追加補足意見参照)には、公務員が代償措置の正常な運用を要求して相当な手段、態様において行った争議行為は、憲法上保障された行為と認める余地がある。

そこで、以下、本件において代償措置が実際上画餅に等しいとみられる事態が生じていたかどうか検討することにする。

1 《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。

(一) 人事院勧告は、昭和二五年から昭和四四年までは実施された金額が勧告内容をやや下回ったり、実施時期が勧告にかかる時期より遅れる等、勧告内容どおりの実施がされない状態が続いたが、昭和四五年から昭和五五年までは一一年間にわたって勧告どおりに実施(昭和五四年及び昭和五五年の指定職職員の実施時期を除く。)されるようになった。そして、昭和五五年には、当時の国務大臣の「昭和四五年以来人事院勧告の完全実施という慣習が慣熟して労使の関係が非常に安定した状態を維持している」旨の発言にもみられるとおり、人事院勧告は、これを完全に実施することが慣熟した慣行になりつつあった。

(二) 昭和五六年八月七日、人事院は、国家公務員の給与を同年四月一日に遡って平均五・二三パーセントを引き上げることを中心とする勧告を行ったものの、政府は、同年一一月二七日、財政状態が逼迫していることを理由として、一般職の職員については勧告どおり同年四月一日から給与改定を行うが、指定職及び本省課長等の職員については、翌昭和五七年四月一日から給与改定を行うこと、期末・勤勉手当は昭和五五年度の俸給等を基準に算定した額とすることなどを内容とする閣議決定をした。その際、鈴木善幸内閣総理大臣は、国会において、人事院勧告に対する政府の右措置は異例な措置であって、今後は人事院制度あるいは勧告を尊重するつもりである旨答弁している。

(三) 昭和五七年八月六日、人事院は、国家公務員の給与を平均四・五八パーセント引き上げることを中心とする勧告をした。政府は、右同日、九月一日及び同月二〇日の三回にわたり、給与関係閣僚会議を開き、右勧告の取扱いについて検討したが、大蔵省が発表した六月の税収実績等によれば、昭和五七年度も、前年度に続き五兆円から六兆円程度の税収不足が避けられない見通しとなったことを受けて、九月二四日の閣議において、未曽有の危機的な財政事情の下において、国民的課題である行財政改革を担う公務員が率先してこれに協力する姿勢を示す必要があることにかんがみ、また、官民給与の較差が一〇〇分の五未満であること等を総合的に勘案して、国家公務員の給与の改定を見送る旨の決定を行った。

(四) 鈴木善幸内閣総理大臣は、同日、国家公務員の給与改定の見送りに関して談話を発表し、財政事情の悪化に伴う財政の緊縮により、国民各層が痛みを分かち合わざるを得ない事態となった今日、国家公務員も給与改定の見送りを甘受することにより行財政改革に協力するよう要請するとともに、一〇月四日、自ら総評、同盟等関係各労働団体と会見し、右の措置について理解と協力を求め、今回の措置は極めて異例なものであり、このような措置が繰り返されることのないよう最善の努力をする旨述べた。

(五) また、政府は、一〇月一八日付け等のILOからの要請に対して、政府としては、人事院勧告を尊重するという基本方針を堅持しており、今後もこの方針を変える考えはないこと、現実にも従来から人事院勧告を最大限の努力を払って実施してきたが、本年度は遂に財政が未曽有の危機的状況となったため、極めて異例の措置として、その不実施を決定したこと、その際、政府は関係労働団体に対し、この決定の前後を問わず誠意をもって対応してきたこと、来年度以降の人事院勧告の取扱いについてはそれが政府に提出された時点で国政全般との関連において検討することとなるが、政府としては今回のような措置が繰り返されることのないよう最善の努力をすること等を内容とする見解を送付している。

(六) 一方、国会においては、一一月二六日から一二月二五日まで、昭和五七年度一般会計補正予算等の審議が行われ、人事院勧告の扱いについても審議されたが、一二月二五日、政府案どおり国家公務員の給与改定の見送りを前提とした補正予算が成立した。

(七) なお、一般職の国家公務員には、給与改定とは別に、一般に年一回、定期的に昇給する制度が存するところ(一般職の職員の給与に関する法律八条六項参照)、昭和五七年度においても、例年どおり平均二パーセント強の昇給が実施された。

(八) その後、昭和五八年度においては、人事院が平均六・四七パーセントの賃上げを勧告したのに対し、政府実施は平均二・〇三パーセントにとどまり、また、昭和五九年度においては、人事院が平均六・四四パーセントの賃上げを勧告したのに対し、政府実施は平均三・四パーセント内にとどまったものの、昭和六〇年度以降は、一般職については再び完全実施が原則となった(ただし、昭和六〇年度については実施時期が同年七月一日とされた。以上につき、《証拠略》)。

2 以上認定の事実を総合すると、人事院勧告は、実施の金額が勧告内容を下回ったり実施時期が繰り下がったりしたことはあるものの、昭和二五年から昭和五六年までの三二年間にわたり、勧告どおりか、これに近い内容で実施され、殊に昭和四五年からは完全実施され、このことが慣熟した慣行になりつつあったものであり、政府は、このような人事院勧告を尊重するという基本方針を終始堅持しており、この方針を変更する考えはなかったものであり、ただ昭和五七年度においては、約二兆五〇〇〇億円の歳入欠陥を生じた昭和五六年度に引き続き、六兆円にものぼる大幅な歳入不足が見込まれるなど、国の財政事情が未曽有の危機的状況にあったことから、やむを得ない極めて異例な措置として同年に限って人事院勧告の不実施を決定したものであることが認められるのである。右決定が何ら理由もなく、また、政府当局において恣意的になされたものではないことは明らかである。この点、原告らは、昭和五七年度の歳入が前年比で伸びていること、シーリング(概算要求基準)についていえば、昭和五七年度より昭和五八年度以降の方が厳しいこと、歳出中に占める国債費の割合が昭和五八年度以降の方が高いこと等を指摘し、昭和五七年度において、未曽有の危機的な財政事情が生じたというのは虚構の事実であると主張する。しかし、昭和五七年度において、六兆円にものぼる歳入不足が予想されていたことは前年認定のとおりであり、財政状態が危機的状況になかったとはいえないことは明らかである。

なお、原告らは、昭和五七年度において、巨額の歳入欠陥を生じた理由は、政府が当初予算の編成に当たって、意図的に過大な歳入見積りを行ったためであると主張するが、かかる事実を認めるに足りる証拠はない。

また、原告らは、人事院勧告実施のための財源は政府が徴税努力を行えば容易に確保できたし、他にこれを実施するための財源として、大蔵省証券の発行や決算剰余金・国債整理基金・外国為替資金特別会計・自賠責特別会計・資金運用部資金・補助貨幣回収準備金等を使用するなどいくらでも調達できたなどと主張する。

しかし、当時政府は、臨時行政調査会の行政改革に関する昭和五六年七月一〇日付け第一次答申(第一次臨調)にあるように「増税なき財政再建」を強く求められており、増税により税収の増加を図ることは極めて困難な状況にあったと考えられるし、原告らが人事院勧告実施のための財源として流用できたと主張する各種の財源も、前記のとおりの危機的な財政事情の下においては、これらの財源を直ちに人事院勧告の実施のための財源として使用できたかは疑問であるから、原告らの主張は採用できない。

3 人事院勧告制度は、公務員の労働基本権を制約するについて最も重要な代償措置の一つであるから、昭和五七年度において人事院勧告が実施されなかったことは極めて遺憾な事態というべきであるが、たとえ公務員に争議行為が認められていたとしても、財源が乏しければ、給与の増額改定は見送らざるを得ないところ、右のとおり、昭和五七年度における不実施の措置は、国の財政事情が未曽有の危機的状況にあったことから、やむを得ない極めて異例の措置として同年度に限って決定されたものであり、このことは、政府関係者も繰り返し明言し、実際、昭和五八年度以降においては昭和五七年度のように人事院勧告が全面的に実施されないということはなく、また、公務員の労働基本権制約の代償措置としては、人事院勧告のほか、身分保障や勤務条件の法定主義等が講じられていることなどを考え併せれば、本件ストライキ時において、公務員の争議行為を制約することに見合う代償措置が実際上画餅に等しいとみられる事態が生じていたということは未だできないというべきである。

4 したがって、右事態が生じていることを前提に本件処分が憲法二八条に違反するとする原告らの主張は採用しない。

五  争点4(本件処分が懲戒権の濫用かどうか。)について

1 公務員に対する懲戒処分は、当該公務員の義務違反その他単なる労使関係の見地においてではなく、公務員が国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務することをその本質的な内容とする勤務関係の特殊性の見地から、公務員としてふさわしくない非行がある場合にその責任を確認し、公務員関係の秩序を維持するために科される制裁であるところ、国公法は、同法所定の懲戒事由(八二条)がある場合に、懲戒権者が懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をするとしていかなる処分を選択すべきかについて具体的基準を設けていない。したがって、懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果あるいは影響のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を総合して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきか決定できるものと考えられるから、その判断は、平素から庁内の事情に通暁し、部下職員の指揮監督の衝に当たる懲戒権者の裁量に委ねられていると解するのが相当である。

したがって、裁判所が右処分の適否を審査するに当たっては、懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択するべきであったかを判断し、その結果と現実になされた処分とを比較して現実になされた処分の適否を論ずるべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法と判断すべきものである(最高裁昭和五二年一二月二〇日第三小法廷判決・民集三一巻七号一一〇一頁参照)。

2 原告らは、一二・一六ストライキ及び一二・二四ストライキについて、右各ストライキは人事院勧告の完全実施を求めたものであって、その目的において非難されるべき点はなく、その手段・態様も一時間(一二・一六ストライキ)及び二九分間(一二・二四ストライキ)の単純な不作為によるストライキにすぎず、その結果開発局の業務に与えた影響はほとんどなかったのに、本件処分によって原告らの被った不利益は甚大であるとして、本件処分は社会通念上著しく妥当を欠き、懲戒権の濫用である旨主張する。

なるほど、人事院勧告制度は公務員の労働基本権制約の代償措置として最も重要なものであり、しかも人事院勧告は昭和二五年から本件争議行為の前年である昭和五六年まで、実施の金額が勧告内容をやや下回ったり、実施時期が繰り下がったりしたことはあったものの、三二年の長きにわたり、勧告どおりか、これに近い内容で実施されてきたものであり、殊に昭和四五年からは勧告内容どおりに完全実施され、このことが慣熟した慣行になりつつあったものであって、このような人事院勧告が、突如として、しかも平均で四・五八パーセントに及ぶ引上げを内容とするものでありながら、全く実施されないことは、給与を生活の資とする公務員にとって衝撃的なことであったであろうことは容易に推認できるのであり、このような公務員が人事院勧告の実施を強く求めて諸行動に至ることも誠に理解できるものといわなければならない。しかしながら、前記のとおり、昭和五七年度において人事院勧告が実施されなかったからといって直ちに公務員の争議行為を制約することに見合う代償措置が画餅に等しいとみられる事態が生じたとまでいうことができないのであり、したがって、その完全実施を求める争議行為がその目的において正当ということはできないといわざるを得ない。また、右各ストライキにおいては、当局の事前の指導・警告を無視して二度にわたり、北海道開発局の職員数千人から約一万人が組織的・集団的に合計一時間二九分もの間、職場を離脱し、職務を放棄しているものであって、手段・態様において単純ないし軽微ということはできないし、その結果、右争議行為が北海道開発局の行う行政事務の正常な運営に支障を与えたことは明らかであるばかりか、国民の利益を損なうおそれを生じさせたことも容易に推認することができる。

右のとおり、右各ストライキに至った経緯については心情において理解できる点も存するが、国民の信託に基づき職務を遂行すべき義務を負う原告らにおいて、右のような争議行為を行い、これにつき指導的役割を担ったり参加した以上、このことに対する相応の処分を受けるに至ることはやむを得ないといわざるを得ないのであって、被告らにおいてこのような者に対し懲戒処分を行うこと自体が社会通念上著しく妥当を欠くということはできない。

3 次に、原告らは、一一・一ストライキについて、右ストライキは、除雪に関する地域住民の利益の擁護と非常勤職員の雇用安定を目的として、かつ、当局の一方的協議打切りという異常事態に対抗する唯一の手段として実施されたものであるから、これを懲戒処分の対象とするのは懲戒権の濫用である旨主張するので、以下検討する。

(一) 前記一認定のとおり、一一・一ストライキは、従来大半を直営で実施してきた除雪体制のあり方に関し、請負化を進めていく方針であった当局と、請負化は非常勤雇用者の職の喪失や除雪サービスの質の低下につながると主張する組合の意見の対立に端を発したものであるところ、そもそも、国道等の除雪を直営で行うか請負で行うか又はどの区画を請負化するかということは、道路の維持、修繕その他の管理に関する事項(道路法一三条参照)として、国の機関がその権限と責任に基づいて行う事務であるから、その管理及び運営に関する事項は、国公法上、職員団体と当局の交渉の対象とすることができないものである(国公法一〇八条の五第三項)。

したがって、除雪を直営で行うか請負で行うか又はどの区間を請負化にするかといったような除雪体制そのものについては、当局として全開発と交渉し得る事項ではないといわなければならない。

(二) 北海道開発局においては、事業の執行が円滑に行われることを目的として、決定前の事業計画及び構想につき、労使において事前協議を行う内容の協定が存在するところ、原告らは、除雪事業執行計画そのものが右事前協議の対象となることを前提として、当局の各部局における交渉打切りの態様がいかに一方的かつ不当なものであったかについて種々主張している。

たしかに、北海道開発局においては、昭和五六年度の除雪事業執行計画における一次除雪の請負化の問題について、当局と全開発とが事実上協議を行い、全開発の強い反発のため、当局がいったん提示した事業計画を撤回した経緯などがあり、全開発としては、昭和五七年度においても請負化そのものについて協議がなされると考えていたのに、それがなされないまま交渉が打ち切られたことに対して、強い不満を持ったこともあながち理解できないものではない。また、一〇月二五日の交渉に応じなかったことについて、後日、北海道開発局長官房長が、従来の労使関係に照らし現時点で考えれば局長交渉を行うことが適当であった旨確認していることなどから明らかなとおり、昭和五七年度における当局の交渉態度が北海道開発局における従前の交渉態度と異なっていたことは事実のようである。

しかしながら、右事前協議とは、昭和四七年一二月二日、労使間で確認されているとおり(以下この確認を「四七確認」という。)、事業執行のための計画及び構想で、それが実施されることによって変動を来す職員の勤務条件に関するものを対象とし、その勤務条件に対する措置の要否、手段・方法の可否について話し合うものであるから、除雪事業に関しても、除雪事業執行計画そのものが協議の対象となるわけではない。このことは、国公法一〇八条の五第三項が管理運営事項を職員団体と当局の交渉の対象からはずしている趣旨からしても明らかである。すなわち、国の事務の管理及び運営は、法治国家である我が国の行政においては、国民の代表者たる国会が法律などで決定した国民の意思に基づき、行政の執行の任に当たる行政機関により、その権限と責任において実施されるべきであるところ、これを職員団体との交渉事項にすることは、行政機関がその責任と権限を職員団体と分担することになりかねないから許されないのであり、同様の結果をもたらすような労使間の合意あるいは労使慣行が成立する余地はないのである。

したがって、除雪事業執行計画そのものが事前協議の対象であることを前提とした原告らの主張は採用できない。

(三) もっとも、前記四七確認でも明らかにされているとおり、除雪の請負化に伴って勤務条件に変動があるような場合には、その勤務条件に対する措置の要否、手段・方法の可否については、それは国公法上の交渉や前記事前協議の対象となるものである。

したがって、当局としては、右のような勤務条件に対する措置の要否等については、交渉に応じる義務があるというべきであるが、《証拠略》によれば、当局が一〇月二三日の時点で交渉を打ち切ったのは、除雪事業執行計画自体についてであって、その除雪事業執行計画を前提とした勤務条件に関する話合いに応じる姿勢を示していたこと、ところが、全開発においては具体的な勤務条件に関する交渉の申入れをすることなく、右事業計画自体の是非や労使間の交渉のあり方をめぐる議論に終始していたことは、当局としては、前年度の協議が降雪期に食い込み、除雪に支障を来して道路交通の混乱を招いたことから、昭和五七年度においては、あらかじめ協議期限を設けて全開発に提示した上で、右期限の経過とともに協議を打ち切ったものであることが認められ、これらによれば、本件においては、国公法上は正当な交渉の申入れがなくそもそも当局には交渉に応じる義務が生じていなかったといわざるを得ないし(国公法一〇八条の五第一項)、また、事前協議の性質上からも、当局が「意見が一致しないとき」(前記「四七確認」)であるとして協議を打ち切ったことに何ら不当な点はないというべきである。

(四) 原告らは、一一・一ストライキは、非常勤職員の雇用確保という正当な目的を有していたと主張する。

たしかに、昭和五七年度の道路維持事業(除雪を含む)執行計画が、従来、直営作業要員として雇用していた任用予定期間六月未満の非常勤職員の雇用を行わず、これにより既存の要員の能力では対処できないこととなる除雪路線を請負化することを基本とするものであることは前記のとおりであり、全開発が非常勤職員の雇用を確保するため除雪の請負化に難色を示したことは、その立場からして理解できないものではないし、行政改革の一環として行政事務処理の合理化や民間能力の活用による定員の縮減などを内容とする第一次臨調などが出される中、非常勤職員に行政事務処理を依存する体制の解消が強く求められていた当時の状況からすると、全開発において、任用予定期間六月未満の非常勤職員以外の非常勤職員についても、今後請負化による影響が出てくるとの危機感を有していたことは当然であったともいえる(当局自身、昭和五七年度はともかく、非常勤職員に依存しない体制の確立のために、今後は任用予定期間六月以上の非常勤職員についても縮減の方向で進まざるを得ない旨の回答をしている。)。

しかし、本来、非常勤職員は業務に必要な期間、必要な人数に限って任用されるべきものであり、除雪の請負化に伴い非常勤職員を任用すべき業務が存在しなくなる以上、その分非常勤職員の任用が減少するのはやむを得ないことであり、また、北海道開発局が前記のように非常勤職員の削減を強く迫られていたことは、全開発においても十分承知していたのであるから、このような状況下において、あえて非常勤職員の雇用の安定を訴えることは、争議行為の目的を正当化させるものではないし、その違法性を減退させ得るものではないといわざるを得ない。

(五) また、原告らは、請負化が住民に対するサービスの低下を招くものであり、一一・一ストライキは住民の権利擁護のためでもあった旨主張する。

しかしながら、住民サービスということが公務員の争議行為の目的の正当性に影響を及ぼすか否かについては疑問があるといわざるを得ないが、そもそも、国道等の除雪については、道路毎に、「第一種」(昼夜の別なく除雪を実施し、交通を完全に確保する。)、「第二種」(二車線確保を原則とし、夜間除雪は通常行わない。)、「第三種」(一車線確保を原則とし、必要な待避所を設ける。夜間除雪は行わない。)、「未除雪区間」の四つの除雪区分を設けて実施されていることが認められるところ、このような除雪方法ないし除雪程度について細かく定められた道路における除雪が直営か請負かによって差異が生ずることは考えにくいものであるし、右状況下で民間業者に請け負わせることが住民サービスの低下につながることを認めるに足りる証拠もないから、原告らの右主張は理由がない。

(六) 以上からすると、一一・一ストライキがその目的において正当な行為となるものではないところ、争議行為に及ぶことのないようにとの当局の事前の指導・警告を無視して、北海道開発局の職員数千人が組織的・集団的に二九分の間職場を離脱し、職務を放棄しているのであり、右争議行為が北海道開発局の行う行政事務の正常な運営に支障を与え、国民の利益を損なうおそれを生じさせたことは容易に推認できるのであるから、右争議行為について指導的役割を担った者やこれに参加した者を懲戒処分に付すること自体が社会通念上著しく妥当を欠くものとは到底認められない。

4 原告らは、本件処分がなされたことにより、懲戒処分それ自体に加え、昇給延伸という不利益を被るのであり、本件処分が過酷である旨主張する。

しかし、北海道開発局の本件処分前後の同種事例においては別表三のとおりの懲戒処分がなされていることが認められるところ、これらの懲戒処分の事例に比して、本件処分が特に重きに失すると認めることはできない。また、懲戒処分に伴う昇給延伸は、懲戒処分自体の効力によるものではないし、原告らにおいては、昭和五五年五月二八日、昭和五六年七月八日及び昭和五七年三月一五日になされた同種事例の懲戒処分を十分に認識していただけでなく、争議行為については当局から厳正な措置を採るとの警告を重ねて受けていたのであるから、原告ら主張の程度の不利益については覚悟の上で争議行為に出たものというべきであり、右程度の不利益を受けることはやむを得ないものというべきである。

5 以上検討した諸事情を総合考慮すれば、本件処分が社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権者に任された裁量権の範囲を逸脱した違法のものであるということはできない。

したがって、本件処分が懲戒権の濫用であるとする原告らの主張は理由がない。

六  結論

以上のとおり、本件処分の取消しを求める原告らの本件請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 一宮和夫 裁判官 伊藤雅人 裁判官 小原一人)

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